「英雄」の代償は不安と沈黙──北朝鮮派兵家族の知られざる苦悩
北朝鮮は昨年、1万人以上の兵士をロシアに派遣し、「祖国のための英雄的闘い」として美化してきた。国は「忠誠を尽くせば報酬がある」とするが、実際に家族が受け取った恩恵はほとんどない。 デイリーNKの取材に応じた平安北道のAさん、咸鏡南道のBさんは、それぞれ派遣兵士の家族として不安と疑念を語った。 「国はまだ正式に(報奨について)何も言っておらず、新しい家、平壌市居住(の権利)、名節物資の配給、労働党への入党推薦、生きても死んでも英雄称号の授与といった噂ばかりが飛び交っている。実際 ...
清貧な芸術家か、裏切り者か──北朝鮮が芸術界に突きつける“忠誠”の二択
北朝鮮の芸術家が所属する万寿台創作社で、朝鮮労働党宣伝扇動部による特別講演会が開かれた。 平壌のデイリーNK内部情報筋は、「今月14日、万寿台創作社の第1会議室で、芸術家の良心と品性に警鐘を鳴らす思想教育のための特別講演会が、党宣伝扇動部副部長の直接指導のもと、約1時間半にわたって行われた」と語った。 この講演会は、今年上半期に一部芸術家の間で現れた非社会主義的行為を批判し、道徳的品性と革命的姿勢を正すことを目的とした。 当日は、国家の配慮により美術大学卒業や海外留学の経験を ...
北朝鮮メディア、金正恩演説を異例の非公開…米軍「イラン爆撃」意識か
北朝鮮で朝鮮労働党中央委員会第8期第12回総会拡大会議が21日から23日まで開催された。会議では今年上半期の総括と下半期の政策方向についての議論が行われたが、北朝鮮メディアの報道は異例なほど非公開の内容が多い。 会議の期間中にアメリカがイランの核施設を爆撃し、それを公表するなど、国際情勢が大きく揺れ動いたことから、北朝鮮がこれを意識したのではないかという見方も出ている。 朝鮮中央通信は金正恩総書記が重要演説を行ったと報じながら、その内容を伝えていない。労働新聞も同様だ。北朝鮮 ...
北朝鮮で「白いトイレットペーパー」が豊かさの象徴に…誇らしげに見せる人も
北朝鮮の金正恩総書記が進める「地方発展20×10政策」で、地方工場が相次いで竣工している。しかし、稼働は必ずしも順調とはいえず、目立った成果も乏しい。そんな中、意外な「生活必需品」が住民の間で話題になっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。 (参考記事:「職人の技」に遠く及ばず──金正恩の経済政策、稼働率も品質も低迷) 平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋が明らかにした人気商品とは、なんとトイレットペーパーだ。「今年2月に竣工した粛川(スクチョン)郡の地 ...
横倒し駆逐艦「どうせまた壊れる」と北朝鮮国民が語る、独特の根拠
先月21日に北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)造船所での進水式で横倒し事故を起こした新型駆逐艦「姜健(カンゴン)号」について、国営の朝鮮中央通信は、今月初めに「6月初めに艦の均衡性を復元したのに続けて、5日午後までに同艦を安全に縦に進水させて埠頭に係留した」と報じた。 そして事故から22日後の今月12日に羅津(ラジン)造船所で、改めて進水式が行われた。これは、朝鮮労働党中央委員会第8期第12回総会が開かれる今月下旬までに艦を復旧せよという金正恩総書記の厳 ...
ロシア接近が生んだ代償──密輸停止で北朝鮮が直面する現実
北朝鮮は国連安保理の制裁により、車両や部品を正式に輸入できなくなった。そこで、朝鮮労働党、安全局(警察署)、保衛局(秘密警察)、税関、貿易会社など国家機関が一体となって、中国から両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に中古車を持ち込む「国家密輸」が行われてきた。 ところが、中国側の取り締まり強化に伴い、今年5月から中断を余儀なくされている。中古車や部品の価格は大幅上昇し、莫大な損失を被る業者や個人も出ており、その余波は広がりを見せている。 両江道のデイリーNK内部情報筋によると ...
村で評判の20代女性が「さらし者」にされた禁断の行為
北朝鮮・咸鏡南道(ハムギョンナムド)の金野(クミャ)郡に住む20代女性が、俳優と歌手の外見について話したことを理由に、思想闘争の場で断罪される事態に陥った。 現地のデイリーNK内部情報筋によると、郡内の農場の青年同盟が先月末、思想闘争会議を開いた。思想的に問題があるとされる人物を壇上に立たせ、参加者から代わる代わる批判を浴びせかけられるという自己批判と公開糾弾を伴う集会だ。 (参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為) この日の壇上に立たせられたのは、20 ...
権力者が群がる北朝鮮”高級スパ”での「隠微な行為」
朝鮮半島の霊山にして北朝鮮の革命の聖地である白頭山。そのお膝元、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)には、8階建ての宿泊施設、映画館、食堂、その他の各種施設を備えた「恵山市踏査宿営所」がある。 踏査(タプサ)とは革命の聖地巡礼のことだが、全国から集まった参加者はここに泊まり、白頭山に向けて出発していく。そんな建物が、近年、高級スーパー銭湯として生まれ変わった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。 (参考記事:「銭湯で男女入り乱れ」北朝鮮高校生らの禁断の行為) ...
「しゃべらない炊飯器」で身を守る北朝鮮のエリートたち
最近、北朝鮮で「しゃべらない炊飯器」が人気を集めている。「ご飯が炊けました」という音声が耳障りだからではない。美味しいご飯を炊くことすら、監視や取り締まりの対象となりかねないという、北朝鮮特有の事情が背景にある。 平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、富裕層の間で最近注目されているのは、音声機能を解除した「しゃべらない炊飯器」だという。外国に派遣された幹部が帰国時に使用していた家電を持ち帰ることが認められ、韓国製品の持ち込みが容易になっていることも人気の一因だ。 この ...
儲けても安心できない国──北朝鮮における「豊かな暮らし」というリスク
北朝鮮の警察は、他人の財布の中身を覗き込むのがお仕事のようだ。 平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)市安全部(警察署)は最近、市民の収入と支出の把握に乗り出した。当然のことながら、市民からは不満の声が上がっている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。 中央の社会安全省(警察庁)は、市民の収入と支出を把握せよとの指示を各道の安全局(県警本部)に下した。それが各市・郡の安全部を経て、各地域の派出所まで下された。 情報筋によると、安全員は管轄区域の情報員(スパイ)を使 ...
昼夜を分かたぬ大音量スローガンに「頭がおかしくなりそう」──金正恩の温室プロジェクトに住民の怒り噴出
北朝鮮は現在、金正恩総書記の指示に基づき、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市の下端里(ハダンリ)と隣接する義州(ウィジュ)郡の西湖里(ソホリ)一帯で、450ヘクタール規模の北朝鮮最大級の温室農場と野菜科学研究センターの建設を進めている。いずれも2023年7月の水害で甚大な被害を受けた地域だ。 当初は歓迎されるかに思われたが、実際には「頭がおかしくなりそうだ」といった苦情が相次いでいる。一体何が起きているのか。この詳細について、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えて ...
「外観だけ直そう」駆逐艦事故の現場幹部ら、金正恩氏に虚偽報告
先月21日、北朝鮮の清津(チョンジン)造船所で発生した駆逐艦の進水失敗事故。新造した艦が横倒しになる様を目撃した金正恩総書記は激怒し、今月下旬に開催される朝鮮労働党中央委員会の総会までの復旧を命じた。しかし、作業は当初から難航が予想されていたうえに、理不尽な指示を繰り返す正恩氏の介入が加わり、現場は混乱を極めていると、デイリーNKの現地情報筋が伝えた。 党軍需工業部の幹部2人は、事故発生直後に、「転覆した艦を総会までに立て直すためには、ロシア製クレーンの導入が現実的かつ迅速な ...
「息子の命の代償がこれか」北朝鮮国民、粗悪なロシア産小麦粉に怒り
最近、北朝鮮にロシア産の小麦が大量に輸入されている。おそらく北朝鮮のロシア派兵への見返りだろう。 「兵士の犠牲と引き換えに得た小麦粉」だ。しかし、北朝鮮の消費者からの評判は非常に悪い。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。 (参考記事:「恐怖に震え自信喪失」北朝鮮のロシア派兵部隊、深刻な実態) 平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、最近に入ってロシア産の小麦が大量に入荷するようになり、糧穀販売所(国営米屋)や路地裏の露天商の販売価格が下落していると伝えた。 現 ...
「復旧するにも設備がない」北朝鮮の事故駆逐艦に悲観的な現地住民
進水に失敗して横倒しになった北朝鮮の新造駆逐艦の復旧作業が「遅れ気味」であると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は23日、排水と艦首分離による均衡回復に2~3日、舷側の復旧に10日余りを要するという、事故調査グループの見解を伝えている。北朝鮮当局は、すでに朝鮮労働党軍需工業部の副部長と造船所支配人らを拘束している。仮に、艦の復旧が大幅に遅れたり、完全に失敗したりすれば、関係者に対する大量粛清につながりかねない状況だ。 (参考記 ...
北朝鮮国民が語る駆逐艦事故「もはや技術者がいない」
今月21日に北朝鮮の清津(チョンジン)造船所で発生した新造駆逐艦の進水失敗事故をめぐり、同国民の間で様々な噂が飛び交っていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。 咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋はRFAに対し、清津市民の間では事故の話題でもちきりだと伝え、「形式を非常に重んじる金正恩が、自ら出席した行事が台無しにされたことで、どんな形で怒りをぶつけてくるか、皆が不安に感じている」と付け加えた。 北朝鮮当局はすでに朝鮮労働党の高官や造船所支配人らを拘 ...
ペットボトルの上でカツラ作り──北朝鮮「刑務所強制経済」の現場
デコボコのセメント床にビニールシートや麻袋を敷き、作業台もないまま、大きなペットボトルにカツラを乗せて作業が行われている。ひび割れた壁、洗面器代わりのひさごに詰め込まれた人工毛髪――。 デイリーNKが入手した北朝鮮の拘禁施設でのカツラ製造現場の写真には、受刑者が劣悪な環境で強制労働させられている実態が凝縮されている。 平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、中国との国境に接する龍川(リョンチョン)や塩州(ヨムジュ)にある労働鍛錬隊(刑期の短い刑法犯、行政違反者を収監する ...