ロシア接近が生んだ代償──密輸停止で北朝鮮が直面する現実
北朝鮮は国連安保理の制裁により、車両や部品を正式に輸入できなくなった。そこで、朝鮮労働党、安全局(警察署)、保衛局(秘密警察)、税関、貿易会社など国家機関が一体となって、中国から両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に中古車を持ち込む「国家密輸」が行われてきた。
ところが、中国側の取り締まり強化に伴い、今年5月から中断を余儀なくされている。中古車や部品の価格は大幅上昇し、莫大な損失を被る業者や個人も出ており、その余波は広がりを見せている。
両江道のデイリーNK内部情報筋によると、恵山市内での中古乗用車1台あたりの価格は、1か月で7万元(約150万5000円)から8万5000元(約182万7500円)へと上昇している。中古トラックや乗合ワゴン車は、2万元(約43万円)もの値上がりとなった。部品価格も1ヶ月で500元(約10750円)上昇したという。
情報筋は「国家密輸が止まる直前に車両を仕入れた密輸業者や、それを買い取って転売している卸売業者が、車がこれ以上搬入されないことを見越して価格をつり上げている」と語った。
さらに、「車を買おうとしている人たちは、今のうちに購入すべきか、それとも価格が下がるのを待つべきかで迷っている」と述べた。ただし、「価格が高いため、値上がりしたままの価格で買おうとする人はあまり多くない」と付け加えた。
一方で、「国家密輸がいつ再開されるかわからない」、「買うなら今だ」といった噂が広がり始めており、買い急ぎの動き(いわゆるパニック買い)の兆しも見られる。
(参考記事:中国の「密輸」取り締まりで北朝鮮の地域経済に打撃)こんな状況下で、密輸に携わる業者の間では困惑と焦りが広がっている。
デイリーNKの中国の情報筋は、「今月に入ってから国境の取り締まりが先月よりはるかに厳しくなった」と伝えた。「当初は今月初めには密輸が再開されると思われていたが、現状では再開の見通しすら立たない」とのことだ。
情報筋によれば、密輸ルートとしてよく知られている、恵山と、国境を流れる鴨緑江を挟んで向かい合う吉林省長白朝鮮族自治県では、辺防隊(国境警備隊)による取り締まりが続いている。最近では、吉林省公安局までこの地域に投入され、取り締まりの強化が一層進んでいる。
情報筋は「当初は、密輸でさまざまな商品が大量に渡っていたため、一時的に辺防隊による取り締まりが行われているだけだと思っていた。だが、省公安までやって来たことで、ここ中国では『北朝鮮と関係が悪化しているのではないか』という声が上がっている」と語った。
(参考記事:「また地獄が来るのか」 北朝鮮を覆う”国境再封鎖”への不安)北朝鮮が、ロシアのウクライナ侵攻の最前線に派兵したことなど、両国の軍事的接近が進む一方、北朝鮮と中国の関係は冷え込んでいると見られている。
北朝鮮の市場に流通する商品の9割以上は中国製であい、中国の対応次第で北朝鮮はたちまち窮地に追い込まれる。北朝鮮のロシアへの接近を快く思っていない中国が、経済面で圧力をかけているものと見られる。
中国の貿易業者の間では、「取り締まりの強化は両国間の信頼関係の弱体化によるものだ」という見方が広がっているが、辺防隊も公安も国境取り締まりの具体的な背景や理由を一切明かしておらず、中国側の業者たちも困惑しているという。
情報筋は、「辺防隊の取り締まり強化は予告なく突然始まり、公安の取り締まりも全く予測できない形で行われている。中国側の業者たちも全く対応のしようがない」とした上で、「一部の業者は密輸再開の時期を探るために辺防隊に理由を尋ねても、『おとなしくしていろ』という返答しか得られない」と述べた。
(参考記事:「国家による密輸」が経済を破壊…意味不明な金正恩政策)こうした中で、北朝鮮側の密輸業者たちも焦りを募らせている。両江道の情報筋によると、「密輸業者の中には、中国から物資を買い付けるために数十万から数百万元の資金を利子付きで借りて中国に送っており、密輸の中断が長引くほど、利子の負担が雪だるま式に膨れ上がっている」とのことだ。
北朝鮮の密輸業者たちは、中国側の業者にしきりに電話をかけて「早く品物をを渡してくれ」と催促したり、「国境はいつ開くのか」と再三にわたって尋ねたりしているという。
情報筋は「密輸業者たちが不安になっているのは、再開のタイミングが全く見えないからだ」とし、「50代の密輸業者のひとりは『毎週のように我慢して待っていたが、もう1か月が過ぎた。今月中には再開されてほしいが、いつになるかわからず気が気でない』と漏らしていた」と伝えた。